高齢者が転倒した際の緊急対応ガイド:家族が冷静に行動するための手順と注意点
高齢者の転倒時、家族が冷静に行動するための緊急対応ガイド
ご家族の高齢者が突然転倒された際、どのように対応すればよいのか、不安を感じる方は少なくありません。特に、転倒は骨折や頭部の損傷といった重篤な事態に繋がりやすく、迅速かつ的確な初動対応が求められます。
このガイドでは、もしもの時に家族が冷静に、そして適切な行動を取れるよう、具体的な手順と判断のポイントを詳しく解説いたします。事前の備えを含め、信頼できる情報に基づいて緊急時対応の準備を進めていきましょう。
1. 転倒直後の状況判断と初期対応
高齢者が転倒された場合、まずは落ち着いて状況を把握することが重要です。
1-1. 声かけと意識の確認
転倒を目撃した場合、あるいは転倒の音を聞いた場合は、まず声をかけて意識を確認します。
- 「大丈夫ですか?」「どこか痛いところはありませんか?」と優しく話しかけてください。
- 応答がない場合や、意識が朦朧としている場合は、すぐに次のステップへ進みます。
1-2. 外傷の有無と本人の訴えの確認
意識がはっきりしている場合でも、見た目だけでは判断できない怪我がある可能性があります。
- 目視での確認: 出血、明らかに腫れている箇所、手足の変形などがないか、全身を注意深く見てください。特に頭部を打っていないか確認することは非常に重要です。
- 本人の訴えの確認: 「どこが痛いですか?」「動かせますか?」など、具体的に問いかけ、本人の言葉に耳を傾けてください。痛みや痺れの有無、体の動かしやすさなどを確認します。
- 無理に動かさない: 痛みがある、または外傷が疑われる場合は、安易に体を起こしたり、動かしたりすることは避けてください。骨折している場合、動かすことで症状が悪化する可能性があります。
2. 救急車(119番)を呼ぶべきかの判断基準
緊急事態の判断は非常に難しいものですが、以下の基準を参考に、救急車を呼ぶべきか判断してください。迷った場合は、ためらわずに119番通報することをお勧めします。
2-1. すぐに救急車を呼ぶべきケース
以下のいずれかに該当する場合は、速やかに119番に電話し、救急車を要請してください。
- 意識がない、朦朧としている、呼びかけに反応しない: 頭部への強い衝撃や脳血管障害の可能性も考えられます。
- 頭部を強打した可能性がある: 出血がなくても、吐き気、めまい、意識障害が後から現れることがあります。
- 大量の出血がある: 止血が困難なほどの出血がある場合。
- 明らかに骨折している兆候がある: 体の一部が不自然に変形している、激しい痛みを訴え動かせない、関節が通常と異なる方向に曲がっているなど。
- 転倒後に強い痛みを訴え、自力で立ち上がれない、動かせない: 特に股関節や大腿骨の骨折の可能性があります。
- 持病が悪化した可能性: 心臓疾患や脳疾患などの持病があり、転倒がその症状悪化によるものと疑われる場合。
- 激しい吐き気、嘔吐、痙攣(けいれん)がある。
2-2. 様子を見ることも可能なケース(ただし、慎重な観察が必要)
以下のような状況で、本人の意識がはっきりしており、大きな外傷が見られない場合は、すぐに救急車を呼ばずに様子を見ることも選択肢の一つとなります。しかし、その後の経過観察は非常に重要です。
- 意識がはっきりしており、会話ができる。
- 軽い打撲や擦り傷のみで、出血も少ない。
- 痛みはあるものの、自力でゆっくりと立ち上がれる、または起き上がれる。
- 注意点: 一見軽症に見えても、内出血や軽微な骨折、頭部外傷の後遺症などが後から現れることがあります。数日間は、意識状態、歩行、食事、排泄などの変化に細心の注意を払い、異変があればすぐに医療機関を受診してください。
3. 救急車を呼ぶ際の具体的な手順
119番通報は、緊急時に迅速な対応を要する重要な行動です。
3-1. 119番通報時の伝え方
119番に電話したら、以下の情報を落ち着いて伝えてください。
- 「救急です」と伝える。
- 住所と目印を伝える: 救急隊が迷わず到着できるよう、正確な住所(番地、マンション名、部屋番号など)と、近くの公園、コンビニエンスストアなどの目印を伝えます。
- 転倒した人の氏名、年齢、性別を伝える。
- 現在の状況を簡潔に伝える: 「高齢者が転倒し、頭を打って意識がありません」「転倒後、足が腫れて立てません」など。
- 転倒した人の持病、服薬中の薬、アレルギーの有無を伝える。
- 通報者の氏名と連絡先を伝える。
- 指示があるまで電話を切らない: 救急隊からの質問に答えるため、電話は切らずに待機してください。
3-2. 救急隊が到着するまでの対応
- 安全確保: 周囲に危険なものがあれば取り除き、高齢者の安全を確保します。
- 保温: 体温が下がらないよう、毛布などをかけて保温に努めます。
- 必要な情報の準備: 医療機関で伝えるべき情報をまとめたメモ(後述)や、保険証、診察券などをすぐに提示できるよう準備しておきます。
- 玄関を開けておく: 救急隊がスムーズに入室できるよう、玄関を開けておくと良いでしょう。
4. 転倒後の観察と医療機関での情報伝達
医療機関を受診する際には、医師に正確な情報を提供することが、適切な診断と治療に繋がります。
4-1. 転倒時の状況を詳細にメモする
以下の点を具体的にメモしておくと、医師への説明がスムーズになります。
- いつ: 転倒した日時
- どこで: 転倒した場所(例: リビングの絨毯の上、浴室のタイル上)
- どのように: 転倒時の状況(例: つまずいた、滑った、立ちくらみがした、突然意識を失ったなど)
- 怪我の状態: 目に見える外傷の場所、出血の有無、腫れ、変形など
- 本人の訴え: 痛みの場所、程度、痺れ、めまいの有無など
- 意識の変化: 転倒直後から現在までの意識の状態、言動の変化
4-2. 医療機関で伝えるべき重要な情報
以下の情報は、医師が診断を下す上で不可欠です。
- 持病の有無: 糖尿病、高血圧、心臓病、脳血管疾患、骨粗鬆症など。
- 現在服用している薬: 薬の名前、量、服用回数(お薬手帳があると便利です)。特に、血液をサラサラにする薬(抗凝固剤)を服用している場合は、頭部外傷の際に注意が必要です。
- アレルギーの有無: 薬や食物など。
- 過去の手術や入院歴。
- かかりつけ医の連絡先。
5. やってはいけないこと
緊急時こそ、避けるべき行動を理解しておくことが重要です。
- 無理に体を起こす、動かす: 骨折や脊椎損傷の可能性がある場合、無理に動かすことで症状を悪化させる危険があります。
- 痛む場所を安易に揉む、冷やす以外の処置をする: 自己判断での処置は症状を悪化させる可能性があります。
- 意識がない人に飲食物を与える: 誤嚥(ごえん)のリスクがあり、大変危険です。
- 安易な自己判断で医療機関への受診を遅らせる: 後から症状が悪化するケースも多いため、専門家の判断を仰ぐことが重要です。
6. まとめ:冷静な対応と事前の準備の重要性
高齢者の転倒は、介護者にとって大きな不安要素です。しかし、事前の準備と正確な知識があれば、もしもの時にも冷静かつ的確に対応することができます。
6-1. もしもの時に備えて
- 緊急連絡先リストの作成: かかりつけ医、地域の救急医療機関、家族、友人などの連絡先を分かりやすい場所に掲示、またはスマートフォンに登録しておきます。
- 高齢者の情報シートの作成: 持病、服薬中の薬、アレルギー、かかりつけ医の情報などを一枚のシートにまとめ、いつでも提示できるように準備しておくと、緊急時に非常に役立ちます。お薬手帳や健康保険証、診察券の場所も決めておきましょう。
- 転倒予防のための環境整備: 自宅内の段差をなくす、手すりを設置する、滑りにくい床材にする、照明を明るくするなど、日頃から転倒予防に努めることも大切です。
転倒事故が起きてしまったら、まずは深呼吸をして落ち着き、このガイドで紹介した手順を思い出し、行動してください。そして、少しでも異変を感じたら、ためらわずに専門家の助けを求めることが、高齢者の安全と健康を守る上で最も大切なことです。