高齢者の急な発熱:家族が慌てずに対応するための手順と注意点
高齢者の体調は、時に急激に変化することがあります。特に発熱は、様々な病気のサインであり、若い頃とは異なり、重篤な状態に繋がりやすいケースも少なくありません。もしご家族の高齢者が突然発熱した場合、どのように対応すれば良いのか、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
このガイドでは、高齢者の急な発熱時にご家族が冷静かつ的確に行動できるよう、具体的な手順と対応のポイントを解説します。適切な初動対応が、ご本人の安全と回復に繋がりますので、ぜひご一読ください。
高齢者の発熱、なぜ注意が必要なのか
高齢者は、免疫機能の低下や複数の持病を抱えていることが多いため、発熱が肺炎や尿路感染症などの感染症、あるいは脱水症状や心臓への負担増など、より重篤な状態へと進行するリスクが高まります。また、若い方のように高熱が出にくい「不顕性発熱」のケースもあり、微熱であっても注意が必要です。
1. 状況判断のポイント:まず確認すること
発熱に気づいたら、まずは落ち着いて以下のポイントを確認してください。
- 体温の正確な測定:
- 腋の下や耳など、正確に測定できる部位で体温計を使用します。
- ご本人の平熱を把握していれば、その数値と比較して発熱の程度を判断する手助けになります。
- 他の症状の有無:
- 全身状態: 意識の混濁、呼びかけへの反応、顔色、唇の色。
- 呼吸: 呼吸が速い、苦しそう、咳き込みの有無。
- 水分摂取・食事: 水分や食事が摂れているか、脱水症状(口の渇き、皮膚の乾燥、尿量の減少)の兆候がないか。
- 排泄: 尿の色や量、排便の状況。
- 痛み: 胸の痛み、頭痛、腹痛など、特定の痛みの有無。
- その他: 嘔吐、下痢、震え、関節の痛みなど。
- 発熱の経緯:
- いつから発熱しているか、体温はどのように変化しているか。
- 数日前からの体調不良や、周囲の感染症の流行状況も考慮します。
2. 緊急時の具体的な対応手順
状況判断ができたら、以下の手順で対応を進めます。
ステップ1:冷静さを保ち、ご本人を安心させる
ご家族が慌てていると、ご本人も不安になります。落ち着いた声かけで安心させ、楽な姿勢で休んでもらいましょう。
ステップ2:水分補給を促す
発熱時は汗をかくことで脱水しやすくなります。 * 少量ずつ、こまめに水分を摂らせます。 水、お茶、経口補水液などが適しています。 * 意識がはっきりせず、自分で水分が摂れない場合は無理に飲ませず、すぐに医療機関への連絡を検討してください。
ステップ3:身体を楽にする
- 衣類の調整: 汗をかいていれば着替えさせ、体温が高すぎる場合は薄手のものに、寒がっている場合は保温に努めます。
- 室温の調整: 快適な室温(20〜25度程度)に保ち、換気を行います。
- 身体の冷却: 熱が高く、ご本人がつらい場合は、首の付け根、脇の下、足の付け根(鼠径部)など、太い血管が通っている場所を冷たいタオルや保冷剤(直接肌に当てずタオルなどで包む)で冷やすと効果的です。ただし、全身を急激に冷やしすぎないよう注意してください。
ステップ4:医療機関受診の判断
発熱時の最も重要な判断の一つが、医療機関への連絡や受診の要否です。以下の目安を参考にしてください。
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すぐに救急車を呼ぶべきケース(緊急度:高)
- 意識が朦朧としている、呼びかけに反応しない。
- 呼吸が非常に苦しそう、顔色が悪く唇が紫色になっている。
- 胸の強い痛みがある。
- 激しい頭痛や嘔吐を伴う。
- 痙攣を起こしている。
- 手足に麻痺がある、ろれつが回らない。
- 普段と明らかに様子が異なり、重篤な状態と判断される場合。
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かかりつけ医に連絡・受診を検討するケース(緊急度:中)
- 38度以上の発熱が続く、または平熱より著しく高い。
- 水分が摂れているものの、食欲不振や全身倦怠感が強い。
- 咳、痰、喉の痛みなど、発熱以外の症状が続いている。
- 普段の様子とは異なるが、意識ははっきりしている。
- 夜間や休日で、かかりつけ医が対応できない場合は、#7119(救急安心センター事業)や地域の夜間・休日診療所へ相談します。
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自宅で様子を見るケース(緊急度:低、ただし慎重に)
- 微熱程度で、平熱と大きく変わらない。
- 他に目立った症状がなく、ご本人の状態も普段と変わらない。
- 水分摂取や食事がしっかり摂れている。
- この場合でも、定期的に体温を測定し、症状の変化に注意して観察を続けます。
ステップ5:病院で伝えるべき重要な情報
医療機関を受診する際は、以下の情報を正確に伝えられるように準備しておきましょう。
- いつから、どのような症状が出ているか。 (発熱、咳、喉の痛み、嘔吐、下痢など)
- 体温の変化の記録。 (可能であれば時間ごとの記録)
- ご本人の既往歴(持病)。 (高血圧、糖尿病、心臓病、腎臓病、喘息など)
- 現在服用している薬、またはアレルギーのある薬。
- 最近の医療機関受診歴や検査結果。
- 介護保険サービスの利用状況。
3. やってはいけないこと、避けるべき行動
- 自己判断での解熱剤の使用: 高齢者の場合、体温調節機能が低下しているため、安易な解熱剤の使用は思わぬ副作用や病状の悪化を招く可能性があります。必ず医師の指示に従ってください。
- 無理な食事摂取: 食欲がない場合は無理に食べさせず、水分摂取を優先します。
- 自己判断での服薬中断や変更: 持病の薬を自己判断で中断したり、量を変えたりすることは非常に危険です。
- 不確かな情報に頼る: インターネット上の不確かな情報や民間療法に頼らず、医療専門家の指示を仰ぎましょう。
まとめ:もしもの時に備える
高齢者の急な発熱は、ご家族にとって心配な出来事ですが、冷静に適切な手順で対応することが何よりも重要です。日頃からご本人の平熱や体調の変化を把握し、緊急時の連絡先や既往歴、服薬情報などを整理しておくことで、もしもの時にも慌てずに対応できます。
このガイドが、ご家族の皆様が安心して介護に取り組む一助となれば幸いです。
付録:緊急時のための事前準備チェックリスト
緊急時に備え、以下の情報を整理し、すぐに取り出せる場所にまとめておきましょう。
- 緊急連絡先リスト:
- かかりつけ医(電話番号、診療時間)
- 救急相談窓口(#7119)
- 夜間・休日診療所
- 地域の医療機関リスト
- ご家族、親族、キーパーソン
- ご本人の医療情報シート:
- 氏名、生年月日、住所、連絡先
- 血液型
- 既往歴(持病の種類と発症時期)
- 現在服用中の薬(薬の名前、量、服用回数、処方医)
- アレルギー(薬、食物、その他)
- かかりつけ医の情報
- 入院・手術歴
- 介護保険サービスの利用状況:
- 担当ケアマネジャーの連絡先
- 利用中のサービス内容
- 備蓄品:
- 体温計
- 経口補水液
- 常備薬(かかりつけ医に相談の上)
- ウェットティッシュ、タオル
- その他:
- 健康保険証、介護保険証、診察券
- お薬手帳
- 印鑑、現金
- スマートフォン(充電済みのもの)