高齢者が呼びかけに反応しない時の緊急対応:家族が取るべき初動5ステップ
はじめに
ご家族である高齢者の方が、突然呼びかけに反応しなくなり、意識がはっきりしない状態になった場合、誰もが強い不安を感じることでしょう。このような緊急事態において、大切なのは冷静かつ的確な初動対応です。このガイドでは、高齢者が意識不明の状態に陥った際に、ご家族が取るべき具体的な行動を5つのステップで詳しく解説します。適切な対応を知ることで、万が一の事態にも落ち着いて対処し、ご本人の安全を守ることにつながります。
状況判断のポイント:意識レベルの確認
高齢者の方が呼びかけに反応しない、ぐったりしているといった状況に直面したら、まずは意識レベルの確認を行います。
- 声かけ: 「お名前はわかりますか」「大丈夫ですか」など、はっきりとした声で呼びかけます。
- 体の刺激: 肩を優しく叩いたり、つま先をつねるなどして、痛み刺激に対する反応を確認します。
- 周囲の安全確保: もし転倒の危険がある場所や、頭をぶつける可能性がある場所であれば、周囲から危険なものを取り除き、安全な体勢(仰向けなど)にそっと移動させます。ただし、首や背中に外傷の可能性がある場合は、無理に動かさないでください。
これらの刺激に全く反応しない場合、意識がない状態と判断し、次のステップに進みます。
高齢者が呼びかけに反応しない時の緊急対応:初動5ステップ
ステップ1:大声で助けを求め、周囲の協力を得る
まず、大声で「誰かいませんか」「助けてください」と周囲に呼びかけ、助けを求めます。近くに家族や近隣の方がいる場合、協力を得ることで冷静な判断や役割分担が可能になります。一人が救急車の手配を、もう一人が応急処置の準備をするなど、複数人で対応することでスムーズな救助につながります。
ステップ2:119番通報と状況説明
意識がない状態は、生命に関わる緊急事態です。ためらわずに119番に電話し、救急車を要請してください。
- 正確な場所の伝達: 住所(マンション名や部屋番号まで)、目印などを具体的に伝えます。
- 状況の簡潔な説明: 「高齢者が呼びかけに反応しません」「意識がありません」といった状況を簡潔に伝えます。
- 年齢・性別の伝達: ご本人の年齢と性別を伝えます。
- 指示に従う: 救急隊員の指示に落ち着いて従い、電話を切らずに待機します。
ステップ3:気道の確保と呼吸の確認
救急車の到着を待つ間、可能な範囲で応急処置を行います。
- 仰向けにする: 安全な場所に仰向けに寝かせます。
- 気道の確保:
- 片方の手を額に置き、もう一方の指2本をあご先にかけます。
- 額を上から押さえながら、あご先をゆっくりと持ち上げ、頭を後ろに傾けます(頭部後屈あご先挙上法)。これにより、舌が気道を塞ぐのを防ぎます。
- 呼吸の確認:
- 気道を確保したまま、顔を胸に近づけ、目と耳と頬で「見て、聞いて、感じて」呼吸があるか確認します。
- 胸やお腹の動きを見て(視覚)、呼吸音を聞き(聴覚)、頬に息がかかるのを感じます(触覚)。
- 10秒間確認し、普段通りの呼吸がない、あるいは呼吸がわからない場合は、心停止と判断します。
ステップ4:心肺蘇生法の開始(必要であれば)
呼吸がないと判断した場合は、直ちに心肺蘇生法を開始します。
- 胸骨圧迫:
- 胸の真ん中(乳頭と乳頭を結んだ線の中心)に、片方の手の付け根を置き、その上にもう一方の手を重ねます。
- 肘をまっすぐに伸ばし、体重をかけて垂直に、胸が約5cm沈む程度の強さで圧迫します。
- 1分間に100〜120回の速さで、途切れることなく30回行います。
- 人工呼吸(可能な場合):
- 胸骨圧迫30回の後、人工呼吸を2回行います。
- 気道を確保し、鼻をつまんで、大きく息を吸い込み、口を相手の口に密着させてゆっくりと息を吹き込みます。胸が持ち上がるのを確認します。
- 人工呼吸が困難な場合や、ためらいがある場合は、胸骨圧迫のみを継続してください。
- 継続: 救急隊が到着するか、ご本人が意識を取り戻すまで、心肺蘇生を中断せずに続けます。近くにAEDがある場合は、音声ガイダンスに従って使用してください。
ステップ5:情報整理と救急隊への引き継ぎ
救急隊が到着したら、状況を正確に伝えます。
- 発生時の状況: どのような状況で意識を失ったのか、いつ頃から反応がなくなったのか。
- 既往歴・持病: ご本人の持病、過去の大きな病気や手術歴。
- 服薬情報: 現在服用している薬の種類、量、服薬時間。お薬手帳があれば渡します。
- アレルギー: 薬や食物に対するアレルギーの有無。
- 最近の異変: 体調不良や食欲不振など、意識を失う前の異変。
これらの情報をメモにまとめておくと、スムーズに引き継ぎができます。
やってはいけないこと・避けるべき行動
緊急時には、誤った対応が状況を悪化させる可能性があります。以下の点に注意してください。
- むやみに揺さぶる: 首や頭部に損傷がある場合、悪化させる可能性があります。
- 無理に水分や食べ物を口に入れる: 誤嚥(ごえん)のリスクがあり、窒息につながる危険性があります。
- 意識がない状態での投薬: 医師の指示なく薬を与えることは絶対に避けてください。
- 一人で抱え込む: 周囲に助けを求めず、すべてを一人で解決しようとすることは危険です。
まとめ:冷静な対応と事前の準備
高齢者の方が呼びかけに反応しないという緊急事態は、誰にとっても不安が大きいものです。しかし、今回ご紹介した5つのステップを事前に理解しておくことで、いざという時に冷静かつ迅速に対応できる可能性が高まります。
大切なのは、「もしもの時」に備えて日頃から準備をしておくことです。
付録:緊急時に備えるための準備リスト
- 緊急連絡先の整理: かかりつけ医、救急医療機関、ご家族(親族)の連絡先をまとめて、すぐに目につく場所に貼っておく、またはスマートフォンに登録しておきましょう。
- 既往歴・服薬情報メモ: ご本人の持病、アレルギー、現在服用している薬の名前と量を記載したメモ(お薬手帳のコピーなど)を、いつでも持ち出せる場所に用意しておきましょう。
- 緊急時対応ガイドの印刷: この記事のような緊急時対応ガイドを印刷し、手の届く場所に保管しておくことも有効です。
- AEDの場所の確認: 自宅や近所の公共施設などにAEDが設置されているか、事前に確認しておきましょう。
これらの準備が、ご家族の皆様が「もしもの時」に冷静に対応し、大切な方を守る力となるでしょう。